【制度の内容】
配偶者が住み慣れた居住環境での生活を
継続したいと希望する場合、
旧民法では、配偶者が相続によって
その建物を取得することや、
あるいは、その建物を取得した他の相続人と
配偶者との間で賃貸借契約等を締結する
などが行なわれていました。
ところが、
前者(配偶者が相続によってその建物を取得)では、
居住建物の評価額が高額であった場合、
配偶者がそれ以外の遺産を取得することが出来ず、
その後の生活資金に困ってしまうことが考えられます。
また、
後者(他の相続人と配偶者との間で賃貸借契約等を締結する)
の方法による場合には、
その建物所有者が配偶者への賃貸借契約等を拒むと、
その建物に住むことが不可能となります。
これを解決する為に「配偶者居住権」が新設されました。
配偶者の居住権を保護することが目的で、
土地建物の所有権を相続しなくても
相続開始後、短期的・暫定的に
従前居住していた被相続人の相続財産に属する建物を使用できる権利である
「配偶者短期居住権」
もう一つが、
その建物の帰属が決定した後も(土地建物の所有権を配偶者が相続せずとも)
長期的・終身的に建物を使用・収益できる権利として
「配偶者居住権」となります。
今回は、上記2つの内の「配偶者居住権」のほうをみていきます。
「配偶者居住権」は、
土地建物そのものよりも評価額が低くなりますので、
その分他の遺産も相続することができます。
ちなみに、配偶者とは
婚姻届けを提出した者となりますので、
内縁の夫婦の場合「配偶者居住権」は取得できません。
① 権利内容
これまでと同じ使い方で、
善管注意義務をもって自ら使用することはもちろん、
居住建物取得者の承諾を得ることによって、
第三者に貸して収益を得ることもできます。
権利が及ぶ範囲は「建物の全部」になりますから、
従前居住用として使っていなかった部分、
例えば従前自らの事業の為に使っていた部分でも、
建物取得者の承諾がなくても、
自らの居住の為に使用することが出来ます。
しかし、
居住建物取得者の承諾がない限り、
増改築や第三者に居住建物を貸したりすることはできません。
また、自ら必要な修繕をすることは出来ますが、
居住建物の通常の必要費は自分で負担しなければなりません。
② 成立要件
配偶者が相続開始時に
被相続人の相続財産に属する建物に居住していたことを前提として、
以下のア、イ又はウのいずれかの場合に配偶者居住権が成立します。
ア 配偶者居住権が遺贈又は死因贈与の目的とされたとき
イ 被相続人の遺産分割協議によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
ウ 家庭裁判所の遺産分割審判において配偶者が配偶者居住権を取得する旨定められたとき(建物所有者の同意は要件ではありません)
③ 存続期間
ア 原則として配偶者の終身の間(期間の定めがない場合は、終身)
イ 遺産分割協議・遺言・遺産分割審判により別段定めた場合には、その定めたところによる
④ 財産的な価値
配偶者が遺産分割において取得すべき財産の額(具体的相続分額)に算入されます。
算定方法は、国税庁から簡易な評価方法は公表されています。
※この計算には、耐用年数(1.5倍)、
経過年数、完全生命表による存続年数、
それに応じた複利現価率など前提条件を調査確認する必要があるので、
税理士などの専門家にお願いしたほうが良さそうです。
配偶者居住権には財産的価値がありますが、
配偶者自身の居住環境を維持する為のものですから、
制度主旨に合致しない等の理由により、
権利を譲渡をすることが出来ません。
そのため、
配偶者が居住建物を使用しなくなった後に
売却などによってお金に変えることが非常に困難です。
⑤ 権利の終了事由
ア 存続期間の終了
イ 配偶者の死亡
ウ 建物所有者による居住権消滅請求により終了
(用法違反や建物所有者に無断で第三者に使用・収益させた場合)
権利消滅時には、原則として建物所有者に対して
居住建物を返還しなければなりません。
ただし、
居住用建物の共有持ち分を持っている場合には、
建物の共有者から居住建物の返還を求めることはできません。
もっとも他の共有者から
持分に応じた賃料請求を受ける可能性はあります。
=おわり=
相続対策には、分割対策、納税資金対策そして、相続税支払い後の財産を高める対策があります。相続対策というと、相続税の節税対策ばかり注目されていますが、節税対策は手段のひとつに過ぎません。全体の状況を把握せずに手段ばかり行った結果、相続が発生するたびに資産が減っていってしまっている方を多く見かけます。相続税の額を減らすことを第一に考えて行動した結果、実は財産も減っていたなんてこともあります。財産が減った結果、相続税が減るといった現象は節税ではありません。このような結果にならない為にも、建築業者やセールスありきの各分野の専門家に相談する時は、私共のような相続対策コンサルタントを窓口としてご利用ください。
ICA公認 相続対策コンサルタント 高山幸也
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