もし、売買契約の決済前に売主が亡くなった場合
どうなってしまうのか?
事例をもとにみていきましょう。
例えば、父が自分の所有する土地の売買契約を締結し、
その売買契約の決済前に亡くなってしまったとします。
さらに、相続人(息子)は
その売買契約の事を知らなく、父の死亡後に初めて聞かされた
といった状況の場合、
相続人はどのようなことを主張することが出来るのでしょうか?
まず、このケースで考えられるのは
「売買契約の事は聞いていなかった」
「この値段では安すぎる」など
契約自体の取消しや価格変更になります。
お気持ちは分かりますが、
いずれも法的には認められない主張です。
なぜかと言うとそれは、
相続によって父の売主の地位を承継しているからです。
もし、約束していた決済日直前に
売主である父が亡くなった場合、
相続登記を行なう時間的余裕が無いと
考えられますので、
決済日の延期を買主と相談することが考えられます。
つまり、売主の相続人は
買主に対して「決済日の延期合意」の
申し入れを行うという事です。
しかし、買主が
決済日の延期に応じず、
決済しない事を理由に
違約金の請求を行ってきた場合はどうなるのでしょうか?
買主は売主から決済日の延期合意を
申し入れられても
延期に応じる義務はありません。
従って、
予定通りに決済が行なわれなかった場合
違約金が発生します。
例えば、相続人(息子)が、
「売買契約の事は聞いていなかった」
といった事情の中で、
急いで準備したにも関わらず
決済日に相続手続きが間に合わなかった。
といった場合でも
違約金支払いの義務が生じるのは酷なようにも思えます。
このような場合は、
「民法415条ただし書き」に
該当するかどうかがポイントになります。
この内容は
「債務の不履行が契約及び
取引上の社会通念に照らし合わせて
相手側の責めに帰することができない事由に
よるものであるときは、違約金の請求はできない」
と定められています。
なかなか難しい文章ですね・・・
これは、
①被相続人(この場合父親)が締結した契約の有無
②契約の有効性の調査、未履行であるか否かの状況把握等に要する時間
③必要書類を揃える為の時間
以上に記載した時間などが必要な為に、
被相続人の債務を履行できなかった場合は、
取引上の社会通念に照らして、
違約金の請求が認められない場合があるという事です。
もっとも、責任が無いということは、
債務を履行できなかった人
(ここでは売主の相続人である息子)
が主張、立証しなければなりません。
違約金が生じる原因は、
契約をしてから日を改めて決済を行なうからです。
契約と同時に決済をおこなえば、
このような問題は起こりません。
ただし、
銀行借入を行わないで買える人、
つまり現金を沢山持っている人
でないと買えませんので、難しそうですね。
売主側としては、
あらかじめ契約前に土地の測量を行って
土地の境界を確定しておくことで、
現金で購入できる人と
一括決済の取引を実現することができます。
売買契約書の中に
「当事者の一方が決済までに死亡した場合
本契約は白紙とする」といった
特約条項を入れておくのも良いかもしれません。
違約金は、
どんな時でも発生するものではありません。
債務不履行が契約内容や
取引上の社会通念からみて、
債務者に責任があるという場合に限られます。
今回のケースの場合、
買主には決済期限の延期に
応じる義務はありませんが、
杓子定規に違約であるとは限りません。
実務的には、話し合いの上、
相続完了後の決済となることが多いです。
=おわり=
相続対策には、分割対策、納税資金対策そして、相続税支払い後の財産を高める対策があります。相続対策というと、相続税の節税対策ばかり注目されていますが、節税対策は手段のひとつに過ぎません。全体の状況を把握せずに手段ばかり行った結果、相続が発生するたびに資産が減っていってしまっている方を多く見かけます。相続税の額を減らすことを第一に考えて行動した結果、実は財産も減っていたなんてこともあります。財産が減った結果、相続税が減るといった現象は節税ではありません。このような結果にならない為にも、建築業者やセールスありきの各分野の専門家に相談する時は、私共のような相続対策コンサルタントを窓口としてご利用ください。
ICA公認 相続対策コンサルタント 高山幸也
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